藤樹園盆栽フェスで販売されていた五葉松が、今回「盆栽Q」のカンタさんの手に渡りました。大品で車での持ち帰りが難しいサイズだったため売れ残っていましたが、この木を「直幹」という樹形に仕立てる挑戦が始まります。
樹形の構想と正面の決定
まず、現在の木の状況を確認し、正面の位置を慎重に検討します。根張りの形や幹の曲がり具合を見ながら、最も美しく見える角度を探します。特に「直幹」は幹のまっすぐさが重要であるため、わずかな曲がりも考慮しながら、最適な位置を選び出す作業は非常に重要です。今回は根張りが良い場所を選びつつ、幹の曲がりが目立たない位置を正面としました。
緻密な剪定作業で理想の形へ
次に剪定に取り掛かります。事前に川崎先生によってある程度の剪定が施されているため、大幅に枝を減らす必要はありませんでしたが、正面から出る不要な枝を切り落とし、「左流れ」になるよう全体のバランスを整えていきます。枝を切り落とすと、爽やかな松脂の香りが広がります。また、古い葉を取り除き、針金掛けの準備を進めます。間延びした枝は思い切って切断し、理想の樹形に近づけていきます。古い枝からは新たに芽が出ないため、今後の芽吹きを考慮し、慎重に作業を進めます。
針金掛けによる枝の造形:銅線とアルミ線の選択
剪定後は針金掛けです。枝を左右交互に配置することを意識しながら、一つずつ丁寧に巻いていきます。針金掛けのコツは、事前に枝の配置を決めておくことです。そうすることで作業がスムーズになり、時間の短縮にもつながります。
針金には銅線とアルミ線があります。作品展に出すような本格的な盆栽には、細くて強く曲げられ、見栄えの良い銅線が推奨されます。しかし、修正のしやすさや扱いやすさを考えると、初心者にはアルミ線も有効です。アルミ線は太く巻く必要がありますが、十分な効果を発揮します。
また、針金を巻く際の角度も重要です。鋭い角度で巻くことで、枝が細く、引き締まって見えます。角度が緩やかだと、枝が膨張して見えるため注意が必要です。針金掛けと同時に芽の整理も行い、余分な芽を取り除くことで、全体の見た目をより美しく仕上げていきます。
「直幹」の美学とコケ順の追求
「直幹」の木は、幹を真っすぐにするのが大前提です。特に細い「直幹」の素材は希少であり、その育成には高度な技術が要求されます。曲がった幹を持つ木では枝も曲げて「蜷局を巻く」ように造形することがありますが、「直幹」の木では自然界の姿に近づけるため、枝も比較的まっすぐに、そして幹に沿わせるように配置します。
今回の五葉松では、樹冠部を剪定し、幹が上に行くほど細くなる「コケ順」を強調します。この作業は勇気がいりますが、よりコンパクトでバランスの取れた樹形を実現するために不可欠です。盆栽の造形においては、定石だけでなく、作り手の「遊び心」や「個性」も重要となります。
五葉松の植え替え:休眠期のリスクと恩恵
針金掛けと剪定が終わると、いよいよ植え替えです。五葉松は芽が出にくく、植え替えが最も難しい樹種の一つとされています。今回は背が高い木なので、最終的には幅の広い鉢に植え替える予定ですが、根への急激な負担を避けるため、まずは少し深さのある鉢に植え、段階的に鉢を変えていくことにしました。
植え替えでは、想定した正面に合わせて根を丁寧に捌きます。太い根は切断し、鉢に収まるように調整します。この際、健康な根からはレモンのような爽やかな香りがします。休眠期であるため、木へのダメージは最小限に抑えられますが、100%安全な作業ではありません。細心の注意を払い、根の状態を観察しながら作業を進めます。植え替えは無計画に行わず、今後の木の成長を見越して記録を残し、次の作業に活かしていくことが重要です。
「直幹」ブーム到来の予感と盆栽の普遍的魅力
「直幹」の盆栽は、そのまっすぐな幹が非常に愛らしく、自然界に立つ木々を想像させます。特に若い世代にとっては、身近な自然の姿に親近感を覚えるため、今後「直幹」がブームになる可能性も秘めています。
一見シンプルな「直幹」ですが、実は盆栽の基本技術が全て詰まっていると言われます。枝の配置、剪定、針金掛け、根捌きなど、全ての工程がバランス良くできなければ、美しい「直幹」は完成しません。今回の五葉松も、完成後もさらに芽数を増やし、余白を活かした空間を作り出すことで、より深みのある作品へと成長していくでしょう。
五葉松の「直幹」は、盆栽の奥深さと可能性を改めて感じさせてくれる樹形です。