盆栽愛好家の間で注目を集める小鉢作家「けんじい」さんのご自宅兼作業場を訪れ、その唯一無二の作品と創作への情熱に迫りました。独学で10年もの間、盆栽鉢を作り続けてきたけんじいさんの、美しさと実用性を兼ね備えた鉢の数々をご紹介します。
唯一無二の作品群
けんじいさんの作品は、多種多様なデザインと釉薬が特徴です。特に目を引くのは、一点一点に込められたこだわりです。
独特の釉薬とデザイン
「この釉薬は特に私大好きで、今年の現代鉢作家展にもこの釉薬をかけた鉢を5点揃いで出しています。透明感があり、細かい貫入が入るため、使い込むうちに味が出てくる」とけんじいさんは語ります。
また、一般的なデザインにとらわれず、自身で考案した独特の鉢も多く見られます。
「袋式」へのこだわり
特に目を引くのが、内側が垂直になった「袋式」の鉢です。
「袋式というのは、内側が普通、中に窪みがあるんですよ。そうすると植え替えの時、根が非常に抜きづらい。そのために内側を垂直にしてますので、抜く時に鉢からスポッと抜けるんです」と、植え替え時の使いやすさを追求した工夫を説明します。
浅鉢と龍の鉢
当初は深めの鉢を中心に作っていましたが、ユーザーからの要望に応え、浅鉢も手掛けるようになりました。
「浅鉢もご要望があるので作り始めています。龍を型取った鉢は、これが最初です。全部一点ものです」と、手彫りで細部まで表現された龍の鉢への愛着を見せます。
女性にも人気の鉢
かわいらしいデザインや釉薬の鉢も多く、「女性受けもいいんじゃないですかね。この釉薬が好きという方は結構多いですよ」と、女性盆栽愛好家を意識した作品作りにも言及します。
創作の哲学:使いやすさも追求
けんじいさんの鉢は、見た目の美しさだけでなく、盆栽を育てる上での「使いやすさ」が徹底して考慮されています。
「見た目だけじゃなく、使いやすさも考えて作られている」という言葉の通り、植え替えのしやすさや、水はけの良さなど、細部にわたる工夫が施されています。
独学10年の軌跡と鉢作りの工程
けんじいさんは陶芸教室で最も長く学んでいる「最古参」とのことですが、その技術はほぼ独学で習得したものだそうです。
鉢作りの3つの基本
鉢作りには大きく分けて「玉作り」「たたら作り」「ろくろ作り」の3通りがあるといいます。けんじいさんは主に電動ろくろを使用しますが、手動のろくろも使いこなします。
繊細な工程と時間
鉢作りは非常に繊細な工程を要します。粘土の選定から成形、乾燥、そして高台(足)の削り出し、釉薬がけ、焼成と、それぞれの段階で専門的な知識と技術が求められます。
「一気にここまで行かないで、乾かして、ある程度乾いたら高台を貼り付ける。それが乾いたら足付けと仕上げの整形」と、時間をかけて丁寧に作品を仕上げていく様子が伺えます。
成功の秘訣は「基本」
「陶芸の基本を学ばないと、うまくできないと思います。土を持ち上げる時も、単純に持ち上げるんじゃなくて、寄せるんだよ。寄せると土が締まるんです。単純に持ち上げると必ずヒビが入ったりします」と、経験から得た貴重なアドバイスもいただきました。
けんじいさんの鉢は、ただの器ではなく、盆栽という生命をより美しく、そして育てやすくするための道具として、深い愛情と熟練の技が注ぎ込まれています。
最後はコレクションの中から、特別に一つプレゼントしてくださるという嬉しいサプライズもありました。
貴重な鉢の数々と創作の裏側を拝見させていただき、ありがとうございました。