23歳盆栽士の挑戦:真柏の文人木づくりで「厳しさ」を「優しさ」に変える

2025-06-10 03:15:31
盆栽Q Bonsai Q
23歳盆栽士の挑戦:真柏の文人木づくりで「厳しさ」を「優しさ」に変える

真柏は、その力強い幹や枝ぶりが魅力の樹種ですが、時には「厳しい」印象を与えることもあります。今回、23歳の若き盆栽士が挑んだのは、仕入れたばかりの真柏を、その威厳は保ちつつも「柔らかく」「雰囲気のある」文人木へと変貌させる大掛かりな作業でした。

剛直な真柏が持つ可能性

今回の真柏は、鉢の影響もあり、非常に威厳のある、しかし「厳しい」印象の木でした。盆栽士は、この木の持つ細い根上がりという特徴を活かしつつ、上部の幹の大きさを解消し、全体をより優しい雰囲気にしたいと考えました。目標は、幹の印象を柔らかく見せ、木に独自の「雰囲気」を持たせることです。

印象を変える「舎利(シャリ)作り」の妙技

作業の核となったのは、「舎利」の拡張と削り込みです。舎利とは、樹皮が剥がれて幹の芯が見えた部分を指します。

  • 舎利拡張の目的: 株元の幹に対して上部が大きく見えるという課題に対し、舎利を拡張することで幹全体が細く、しなやかに見えるように工夫します。これにより、上部まで「優しい印象」を持たせることが可能になります。
  • 具体的な作業: 特に太い部分や裏側の舎利を削り込むことで、見る人に幹が細く見えるよう錯覚させる効果を狙います。枯れている部分もルーターを使って丁寧に削り込み、生きた部分との対比を面白く見せることを意識します。
  • 使用する道具: 盆栽士が使用したのは、先端が平らな切出し(昌国製)でした。生きた部分と枯れた部分では皮の柔らかさが異なり、その感触を確かめながら慎重に作業を進めます。

枝の配置と「枝棚(えだだな)」の調整

舎利作りと並行して行われたのが、枝の配置調整です。

  • 裏枝の移動: 木の右側をカバーするために、裏枝を針金で慎重に右に移動させます。
  • 枝棚の作成: 全体のバランスを見ながら枝棚を作ります。背の高い木であるため、距離をとって全体像を確認することが重要です。差し枝は、少し持ち上げることで自然な「流れ」が生まれるように調整しました。

樹形を支える「植え替え」と鉢選び

作業の仕上げは植え替えです。

  • 鉢の変更: 以前の鉢が持つ「厳格な印象」を和らげるため、柔らかな印象の鉢に変更します。この鉢は色合いも真柏によく合い、深さも適切でした。
  • 安定性の確保: 背の高い木は重心が高くなるため、倒れるリスクがあります。3つ足の鉢の場合、本来は正面に足が来ますが、木の重心が安定する位置に足が来るように配置を優先します。
  • 植え替えテクニック:
    • 底の土を落とし、根の匂いで健康状態を確認するユニークな一面も。
    • 乾燥させた水苔を使うことで、均一に敷き詰められるという利点があります。濡れた水苔は均一になりにくい場合があるとのこと。
    • 水やりの際に土がこぼれないよう、水苔で表面を覆う工夫も紹介されました。
    • 鉢はベビーオイルで拭くと美しく仕上がります。

完成した真柏の姿

舎利作り、枝の配置、そして植え替えを経て、真柏は当初の「厳しい」印象から、見事に「優しい」雰囲気を持つ木へと変貌を遂げました。木の良い部分を活かし、上部を修正することで、コントラストが際立ち、幹がより細く見えるようになりました。

真柏の魅力は、赤い幹、白い舎利、そして葉の緑が織りなすコントラストにあります。今回の木も、古さのある幹肌をあえて磨かず、自然な風合いを残す選択がなされました。盆栽士は、この木が長く楽しめる見所が多く、見飽きない存在であることを強調します。良い板舎利の木は、いつまでも見ていられる魅力があります。

まとめと今後の展望

今回の真柏の作業は、盆栽の印象が鉢や角度、そして作り手の意図によって大きく変わることを改めて示しました。盆栽は、単なる植物の栽培ではなく、その木が持つ個性を最大限に引き出し、新たな美しさを創造する芸術です。

盆栽士は今後、展示会にも出品する予定で、川崎先生が作った木に針金を掛ける作業にも挑戦するとのことです。今回の真柏のように、小さな木でも、その印象を変える作業は非常に奥深く、多くの楽しみがあるでしょう。