枯れた枝がアートに変わる!盆栽・シンパクの「ジン舎利」作りを籠宮流から学ぶ

2025-06-10 01:00:45
盆栽Q Bonsai Q
枯れた枝がアートに変わる!盆栽・シンパクの「ジン舎利」作りを籠宮流から学ぶ

枯れてしまった枝や幹を単なる「不要な部分」と捉えていませんか?実は、それらは盆栽に新たな命と風格を与える「ジン」や「舎利」として、素晴らしい芸術作品に生まれ変わる可能性があります。今回は、盆栽Qの企画で、枯れたシンパク(真柏)の木を素材に、籠宮氏からその真髄を学ぶ機会を得ました。

枯れ枝を活かす素材選び

今回の企画では、参加者がそれぞれ持ち寄ったシンパクの木を籠宮氏に選んでもらい、ジン・舎利作りに挑戦しました。

キミコの木は、以前に曲げた株立ちのシンパク。幹の一部が枯れてしまったものの、籠宮氏からは「枯れて良かったのかもしれない」という驚きの言葉が。なぜなら、枯れた枝を「ジン」に、幹の枯れた部分を「舎利」にすることで、まるで山採りのような自然な樹形を目指せるからです。

ヒルマ氏の木は、撮影前に自ら枝を切ったことで舎利を作るのに適した状態になっていました。枯れた部分を積極的に活かす発想が、盆栽の可能性を広げます。

ジン・舎利作りの基本と道具

ジン・舎利作りでは、枯れた部分の樹皮を剥がし、彫刻刀やナイフ、ヤスリなどで削り込んでいきます。ルーターを使う場合もありますが、今回は公共施設での撮影のため、手作業が中心でした。

籠宮氏の作業を間近で見ると、その熟練の技に感銘を受けます。枯れた樹皮を剥がす作業は一見大変そうに見えますが、乾燥させてから水をつけて削る、あるいは先に大まかに剥がしておく、といった工夫で効率的に進めることができます。

籠宮流「ジン・舎利」作りの秘訣

1. 水吸い(甘皮)を意識した削り込み

ジン・舎利作りの最も重要なポイントの一つが「水吸い」(水の通り道となる生きた部分、甘皮)の扱い方です。籠宮氏は、水吸いを完全に削り取らず、少し残すことを推奨します。これにより、水吸いの部分が肥大化し、舎利に覆いかぶさるような自然な膨らみを生み出します。

削り込んだ舎利の際の部分を深く削り、その奥に甘皮を残すことで、肥大化をより促進させる方法も教えていただきました。

2. 保護剤「トップジン」の活用

削り終わった部分には、盆栽用の保護剤である「トップジン」を塗布します。これは殺菌効果があるだけでなく、水吸いの肥大化を促進する効果も期待できます。シンパクのような樹種では、水吸いの力強い膨らみが樹全体の風格を高めるため、特に有効とされます。

3. 「成り行き」と「意図」の融合

舎利作りには、木の自然な流れに沿って削る「成り行き」と、理想の樹形をイメージして意図的に削るアプローチがあります。籠宮氏は、正面から見た時のバランスを重視し、時に舎利の流れを無視してでも、そこに舎利があった方が良いと判断すれば削り込む、柔軟な姿勢を示します。

枯れていない枝にも舎利を作る際は、水吸いを適切に残すことで、枝が枯れる心配はないとのことでした。

4. 「板幹舎利」への挑戦

幹の一部を板状に平たく削り出す「板幹舎利」は、木の力強さを表現する手法の一つです。水吸いが十分にあれば、このような大胆な整形も可能になります。

舎利完成後の針金掛けと枝の配置

舎利の削り込みが大方終わると、次は生きた枝の針金掛けに入ります。この段階では、将来の樹形を見越して枝を多めに残すのが基本です。葉を落としすぎると、水揚げが弱くなり枯れるリスクが高まるため、見栄えよりも木の健康を優先します。

今回のシンパクは、これまで幹を曲げることに重点が置かれていましたが、今回は枝の配置が重要になります。間延びした枝は蛇行させるなどして、限られた空間に葉が満遍なく配置されるように調整します。ただし、今の時期に過度な追い込みをかけると木が弱る可能性があるため、無理のない範囲で作業を進めます。最終的には、頭の枝は3本程度に絞り込むことを想定しつつ、段階的に樹形を完成させていきます。

枯れ枝がもたらす新たな価値

今回の作業を通して、枯れてしまった枝が「ジン」として、あるいは「舎利」として、盆栽の風格を決定づける重要な要素になることを実感しました。

キミコの木は、厳しく曲げたことで枯れてしまった部分が、かえって自然な風合いのジンとなり、白いジンが緑の葉に映えるコントラストが際立ちました。また、枝の振り方で木の流れを強調し、逆向きの枝を頭に使うなど、独創的な発想が光ります。

「枯らしてもラッキーだった」と語る籠宮氏の言葉は、盆栽における「枯れ」の概念を根底から覆すものでした。むしろ枯らすことで、より珍しく、自然な趣のある盆栽が生まれることもあるのです。

盆栽の新たな楽しみ方

ジン・舎利作りは、ただ枯れた部分を除去するのではなく、それを積極的にデザインに取り込むことで、盆栽に深みと物語性を与えます。

今回の学びは、単なる技術習得に留まらず、盆栽の多様な表現方法と、自然と向き合う奥深さを改めて教えてくれるものでした。

完成した盆栽は、今後、樹勢を上げるために大きな鉢に植え替え、半日陰で管理することで、来年の国風展出品を目指すことも可能になるでしょう。

枯れ枝を諦めず、その可能性を最大限に引き出す籠宮流のジン・舎利作り。この技術は、あなたの盆栽ライフに新たな喜びをもたらすに違いありません。